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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)490号 判決

原告

中村智昭

被告

岸谷勝三

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金三〇万円及びこれに対する平成二年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  損害賠償債務負担の合意

被告と原告とは、平成元年八月七日、次の物損事故について、被告において被害車に生じた修理代金その他の損害を賠償する債務があることを負担する旨合意した。

(一) 日時 平成元年八月四日頃

(二) 場所 大阪市城東区新喜多一丁目三番 扶桑モータープール内

(三) 加害車 普通貨物自動車(なにわ五六せ八五四五号)

(四) 被害車 普通乗用自動車(山口三三そ二一二一号)

右所有者 原告

(五) 態様 加害車が被害車右前部に接触し、同部が破損した。

2  被告の修理代金等の支払い

被告は、右1の合意に従い、原告に対し、被害車の修理代金一五万八四九〇円及び代車料三万円を支払つた。

二  争点

原告は、被害車は、平成元年六月中旬に三七四万円で購入したフイアツトクロマの新車であり、本件損傷により、修理代金等の損害ほか、二〇万円を下らない評価損(格落ち損)が生じたとして、その損害賠償及びこれに伴う弁護士費用一〇万円を求めるのに対し、被告は、本件において、評価損の賠償を負担する合意はしていないし、被害車の損傷の程度、修理内容等から評価損は生じていないと主張する。

第三争点に対する判断

一  本件合意の内容について

前記第二の一の争いのない事実に、甲三号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、被告に対し、本件損傷により原告に生じた被害車の修理代金(将来、本件事故が原因となつて被害車が不調となつた場合の修理代金を含む。)その他の損害の賠償を求め、被告がこれに特段の異議を述べずに応じたものであることが認められ、後記のとおり、自動車事故により自動車が損傷した場合、評価損(格落ち損)が発生することがあり、それを特別の損害ともいうこともできないから、本件において、被告は、本件事故に起因する評価損が生じた場合は、この損害をも賠償する旨の合意をしたものと解するのが相当である。

二  評価損(格落ち損)発生の有無について

1  交通事故により自動車が損傷し、それが修理されても、(1)修理技術上の限界から、顕在的に、自動車の性能、外観等が低下している場合や、(2)事故による衝撃あるいは修理を加えたことにより、修理後すぐに不具合が生じなくても、経年的に不具合が発生する蓋然性があるような場合は、被害車の所有者は、修理による原状回復が不十分である場合として、事故前の被害車の価値と事故後の被害車の価値の差額を評価損(格落ち損)として損害賠償請求することができるものと解される。

2  甲六及び七号証によれば、被害車は、原告が三九七万五〇〇〇円(諸費用を含む。)で購入し、平成元年六月七日に初度登録されたフイアツトクロマターボであり、その購入後二か月足らずで本件損傷を受けたものであることが認められる。しかしながら、甲一号証、検乙一ないし三号証及び弁論の全趣旨によれば、本件損傷は、被害車のフロント右フエンダー及びフロントバンパー右前部がわずかに擦過した程度のものに過ぎないところ、被害車については、フロント右フエンダー及びフロントバンパーを交換し(その部品代金合計一〇万六〇〇〇円)、フエンダー部分の塗装を行う(その料金二万五〇〇〇円)といつた修理がなされたことが認められるのであつて、右修理後において、なお顕在的に自動車の性能、外観が低下していると認めることはできず、また、経年的な不具合が発生する蓋然性も認められないというべきである。

これに対し、甲二号証(西部自動車有限会社作成の下取車両見積書)によれば、被害車の下取見積りは、事故歴がある場合は本来の下取価格より二〇万円下がるとされ、また、全国中古車オークシヨン会場でも事故歴のある場合は落札価格二〇万円落ちが基本となつているとされるが、その具体的な根拠は明らかでなく、本件において評価損が生じたことの的確な証拠とすることはできないというべきである。他に原告主張の評価損の発生を認めるに足りる証拠は存しない(なお、十分な原状回復がなされたが、事故歴があるということで自動車の交換価値(売却価格、下取価格等)が低下することがありうるとしても、所有者は、売却あるいは下取りに出さないで使用価値が滅失するまで使用することもあり、また、将来売却ないしは下取りがなされたとしても、そのときの交換価値は、その時点における車両の程度、中古車市場における人気の度合い等によつて左右され、特に下取りの場合は、新車の販売政策によつて下取価格が決定される要素もあると考えられることからすれば、事故当時において、既に売却あるいは下取りに出すことが具体化していたような場合は格別、原則として、単に事故歴があることによる交換価値の低下を現実具体化した損害として賠償請求することはできないというべきであるところ、本件において、右のような特段の事情を認めることもできない。)。

三  結論

以上によれば、原告の請求は理由がないことが明らかであるから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 二本松利忠)

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